バルダー果樹園の果樹園一覧。
◆ワイン用ぶどう園(上田市)。
・光の園 上・中・下
・風の園 大・中・小
品種構成は、将来的に収穫時期別の三種類のワインを作るべく、
早生:ピノノワール
中生:シラー+カベルネフラン
晩生:カベルネソーヴィニヨン+カベルネフラン
をそれぞれ植えている。
◆シードル用りんご園(東御市)。
・水の園 大・小
品種構成は、将来的に収穫時期別の三種類のシードルを作るべく、
早生:シナノリップ+祝
中生:シナノゴールド+紅玉
晩生:サンふじ+グラニースミス
をそれぞれ植えている。
バルダー果樹園の果実は、皮や種の香りまで完成されていなければならない。
バルダー果樹園のワインは、皮や種を浸してその香りを引き出している。
よって、皮や種を使用しない白ワイン用ぶどうは栽培していない。
◆ワイン用ぶどうについて。
ワイン用ぶどうの果樹の樹形は、
垣根を使っての矮化栽培
(1m間隔に果樹を配置し、互いに根の範囲を制限させる事で、果樹が無制限に大きくなる事を防ぐ栽培方法。)
であり、
シングルギヨ
(ギヨは毎年主枝を更新する方法、毎年更新しない方はコルドンと呼ばれる。
シングルは一本の主枝を片側に誘引する方法、ダブルは両側に合計二本の主枝を出す方法。)
であり、
VSP
(Vは垂直を表すVerticalの略、横に誘引した主枝から生えた成枝を垣根に沿わせて垂直に誘引する方法。)
である。
バルダー果樹園のワイン用ぶどう栽培の特徴として、
無摘心という要素がある。
摘心をしないという意味だが、もっと包括的に言えば、
冬の剪定以外で果樹に刃を入れない、という意味でもある。
まず、摘心というのは、垣根の上に伸びた枝を垣根の上の高さで刈り揃え、
枝先を刈られた事で活性化する、元の枝の脇芽である副梢の芽も全て取り払い、
枝の伸びる先を全て盆栽のように細かく切る事で、
行き場を無くした栄養が果実に行くように仕向ける、という技術である。
果樹農家が果樹に刃を入れれば、果樹は必ず反発して樹勢を強くし、
果実の香りに対して、悪影響を及ぼす。
樹勢が強い養分でも、それが果実に向かえば、確かに糖度は高く、大粒なぶどうが出来上がるだろう。
だが、やはりその養分は樹勢が強い養分であり、甘いだけで香りがないぶどうが出来る。
果樹に自ら、果実を種まで完成させようと思わせなければ、
皮や種まで香りが完成された果実というものは、作る事が出来ない。
同時に、甘いだけで香りがない果実など、嗜好品として高い価値を持つものではないと思う。
とはいえ、果樹農家がある程度果樹に刃を入れないと、今度は日当たり風通しが悪くなり、
それはそれで、果実の香りに対して悪影響を及ぼす。
なのでどうせ切るなら、果樹に花や果実が接続されていない、果樹が冬眠中の冬に、
切るべき枝をすべて切る方が、樹勢への影響による果実の品質への悪影響を最小化出来る、
というのが、「剪定」という言葉の意味だと、バルダー果樹園は思っている。
摘心をせねばならないほど枝が伸びてしまうなら、
その果樹はそもそも、樹勢の管理に失敗しているのだ。
まずは、果樹園の土壌中の養分を低めに設定し直す所から、始めなければならない。
また、上の画像を見てもわかる通り、バルダー果樹園は、
ワイン用ぶどうに対して、シードル用りんごの技術である、
葉摘み(収穫二週間ぐらい前に、果実の周りについている葉を摘む事で、
果実の日当たり風通しを向上させる行為)を行っている。
ワイン用ぶどうの界隈では、除葉という言葉があるが、
これは、夏季に重なり合った葉の除去する事である。
バルダー果樹園は基本的に、剪定以外で果樹に刃を入れない、つまり除葉はしない。
ワイン用ぶどうに葉摘みをしない場合、
例えば、笠かけをしたり、ぶどうの上に雨除けのシートを引いたりして、
収穫前の果実を病害虫から守る方法もあるが、
それらは雨を防げても、日当たり風通しは悪くなり、果実の香りは損なわれる。
収穫直前の果実の皮は、しっかり日が当たり風に撫ぜられる事で、一気に香りが乗ってくる。
そしてしっかり日や風が当たれば、そこに防除効果があり、虫や病気も出づらくなる。
雨を避けるよりももっと根本的に、収穫直前のぶどうを病害から守り、
更に日当たり風通しを良くして、果実の香りまで良くできる。
しかも、笠や雨除けシートのような専用の資材も要らない。
葉摘みでは、葉の根元を根本側に返すように指で押せばすぐ取れるので、刃物も要らない。
さらに、本家葉摘みのシードル用りんごと違い、
ワイン用ぶどうの垣根は、フルーツラインと呼ばれる一定の高さのライン上に果実が付く為、
りんごと比べても、葉摘み作業が簡便で単純でイージーである。
現状バルダー果樹園はあまり人を雇っていないが、この仕事は簡単に人を雇える仕事だと思っているし、
収穫前のぶどうを日に当てて香りをもっと良くする作業は、それなりに気分がいい。
バルダー果樹園は、ワイン用ぶどうが葉摘みをしない理由が、よくわからない。
◆シードル用りんごについて。
シードル用りんごの樹形は、バルダー果樹園が勝手にシングル開心形と呼んでいるものであり、
開心形というのは、
りんごの普通樹(矮化されていない、常に果樹が大きくなる前提の作り)の樹形で、
航空写真のように上から見た時に、果樹の中心から枝が開くように配置されているから、
開心形と呼ばれている。
本来、開心形は中心で主枝を二股に分けるのだが、
「樹皮を風が撫ぜるだけでも、そこには防除効果がある。」
「防除の防は予防の防!耕種的防除こそ防除の質を分けるもの!」と言うぐらい、
バルダー果樹園は日当たり風通しにうるさいので、
太い主枝が分岐している分け目も、日当たり風通しに対するリスクだと捉え、
まず根元から一本の主枝を高く掲げ、それを空中で横に伸ばし、
主枝から横に成枝が垂れ、そこに香りの良いりんごが出来る、という樹形を採用している。
バルダー果樹園にとって、ワイン用ぶどうのシングルギヨも、シードル用りんごのシングル開心形も、
主枝を横に誘引し、主枝の横から成枝を出すという点において、同じ思想の樹形なのである。
主幹形(クリスマスツリーのような自然な樹の形)では、
樹勢が強い状態で果樹が上へ上へと伸びて行ってしまい、
成枝の付近の日当たり風通しも悪くなってしまうため、
まず、「主枝を横に誘引する」というのが、香り高い果実を収穫する上での果樹栽培の基本事項なのだ。
私がシードル用りんごを作る時に、心に留めている言葉として、
「果樹農家は、りんごを愛玩動物にしようとしているのではない。りんごで人を笑顔にしようとしているのだ。」
「果樹に刃を入れずに誘引で済むものであれば、全て誘引で済ませた方がいい。」
「剪定で欲深い枝を残してはならない。それは長い目で見れば、その欲を叶えられない。」
「講習会で農協の言っている事は全部自分なりに咀嚼しろ、その上で自分で考えた農業をしろ。」
「果樹農家は、百種類の仕事をしなければならないから、百姓と呼ばれるんだ。」
など、ここに書ききれないほどたくさんの言葉達がある。
バルダー果樹園は、長野県の古くて癖の強いりんご農家達の言葉の中に、
「果樹とは何か、果実とは何か。」「果実を人に売って生きる果樹農家という生き方とは何か。」
そういう事の解釈について一日の長を感じるような、人生の蓄積の輝きを感じた。
私がつい、彼らを「先生」とか「名人」と呼びたくなるような、強いパワーを感じた。
バルダー果樹園の、ワイン用ぶどうの技術も、シードル用りんごの技術も、
私が、果樹農家としての先生達から学んだ宝物のような言葉達で構成されている。
私は、そんな誰かの言葉の価値を誇りながら生きていきたいと思っている。
バルダー果樹園の果実の香りが、
バルダー果樹園のワインを飲んだ誰かの、個人的な人生を語る言葉を、
強く後押ししてくれるような道具になれると、私は信じている。