バルダー果樹園のワインリスト
カベルネソーヴィニヨン2019(非売品)
ドメーヌナカジマさんにて委託醸造、幻のファーストヴィンテージワイン。
ほぼ就農直後にごく少量のぶどうで作った、生産本数20本程度の非売品。
このワインを作った事でバルダー果樹園は、
バルダー果樹園の果実の皮や種の香りの力強さや、それらがワインの香りに与える影響を実感した。
同時に、それらの最大化がまだまだ不十分である事を認識し、
山籠もりをする仙人のように、自身の農業システムの根本的な改善を始めるようになる。
後のバルダー果樹園のワインの品質評価基準を作っていく上で、
明確な起点となったワインだと思う。
バルダー果樹園は基本的にワインを評価する時に、
「○○の香り」という言葉を使わない。
言葉というものは、全て何かを形容している言葉なのだと私は思う。
人は、直接的に互いの頭の中を知る事は出来ないからこそ、
不完全ながら悪あがきのように、言葉を紡ぐ。
決して到達できない人の頭の中に興味があるから、
人は人と、個人的な言葉を交換したがるのだろう。
共通の真実なんてものはどこにもなく、あるのは、それぞれの認識だけなのだと思う。
だからこそ、言葉は個人的であればあるほど、より言葉らしいと、
私は思っている。
自分がワインを飲んだ時に感じた香りを形容する言葉に、
正解なんて、一つもないのだと思う。
誰もが、自分にしか観測できない個人的な人生を辿り、
その経験則の歪なかたまりが、ワインの不可思議な香りに対して、
何らかの形容をして、何らかの例え話をし始めるわけだ。
そしてその言葉が人によってまるで違う所が、ワインの一番面白い所だと思っている。
だから、「このワインには○○の香りがあります!」なんて私は言わない。
ただ、「感動の材料」の量が最大化されたワインを、バルダー果樹園は作っていく。
この2019年のワインを飲んで香りを感じた時に、
この香りを形容する言葉は、私ではなく、
このワインを飲んだ一人一人の人が自由に決めるべきだと、私は強く感じたのだ。
バルダー果樹園は、就農から3年ほど有機栽培をやっていたのだが、
3年目にして、自分なりに有機栽培で良いぶどうを収穫出来る農業システムを完成させた時に、
有機栽培という、単純な使用農薬の種類に対する枷を外した方が、
結果的に、もっと人を生きやすく出来るような、より香りのすごい果実も作れるし、
最終的な農薬の使用量に関しても、グッと減薬出来る事に気づき、
2021年の冬から、新たな農業システムを実施し始める。
ここでその農業システムの全てを説明する事はしないが、人からよく驚かれる特徴としては、
「冬の剪定以外で果樹に刃を入れない」という点だと思う。
りんごの開心形の普通樹の、
非常に厳しい樹勢管理や日当たり風通しの管理に対する技術が、
ワイン用ぶどうの強い樹勢を弱める上で、大いに取り入れられている。
ワイン2022
アルカンヴィーニュさんにて委託醸造、バルダー果樹園として販売する初めてのワイン。
品種構成はカベルネフラン、カベルネソーヴィニヨン、シラーの三種。
委託醸造のロットの量に合わせる為、バルダー果樹園から収穫できるぶどうを全てかき集めて作ったワイン。
それでも少量での委託醸造になってしまった為、ロットの都合で古樽が使用された。
果実の完成度は、70%と言った所。
皮や種まで香りが完成された果実を作るようなシステムの概形が出来たのが、2021年の冬であり、
ワイン2022は、まだ新たな農業システムの真価を出せていない部分が多く、
摘心を完全に0にも出来ておらず、虫や病気の害も減らし切れてはいなかった。
収穫時期としては、収穫前の果実の皮を舌で潰したり、種を歯で割って中の香りを確認して、
未熟なニュアンスが無くなって香ばしくなってきた範囲の中で、
酸をある程度残す意味で、出来る限り早く収穫してみたものになる。
バルダー果樹園の収穫タイミングとしては、相対的に早取りタイプである。
ワインの味わいとしても、香りと酸が特徴のワインになっていると思う。
至らぬ点はまだまだあれど、バルダー果樹園のワインとして世に出しても恥ずかしくないだけの香りは、
一応持っているワインだと思う。
バルダー果樹園としての品質評価は、3500円のワインと言った所だ。
りんごジュース2022(終売)
バルダー果樹園のりんごは、開心形の普通樹で栽培されており、
とにかく樹勢の強いりんごにならないように、徹底的に樹勢を弱められて作られている。
それにより、皮は肉厚、種を割っても青いニュアンスを感じないような、
それはもう変わっていて、香りの強いりんごが出来ている。
もちろんそんなりんごは直接かじっても、ムワッと主張の強い香りが喉から昇ってくるし、
ジュースにしても、飲んだ時に喉から上がってくる香りの量がまるで違うものになるわけだ。
そんな2022年のりんごを、りんごジュースにして直売所に一本1500円で置いてみた所、
ほとんど売れずに賞味期限が切れ、在庫を家で自分で飲む事になる。
とはいえ、これを家で飲んでいると、不自然なほどにやたらと元気が出るので、
私と両親の家族3人、これを飲んで今後の農業をより元気に行う事が出来た。
ワイン2023
アルカンヴィーニュさんにて委託醸造。
品種構成はカベルネフラン、カベルネソーヴィニヨン、シラーの三種。
委託醸造のロットの量に合わせる為、バルダー果樹園から収穫できるぶどうを全てかき集めて作ったワイン。
2022年よりも量を確保出来たので、樽を使わずにステンレスタンクで醸造してもらう事が可能になった。
果実の香りにこだわるバルダー果樹園としては、樽香を足さない方が良いワインである。
果実の完成度としては、85%と言った所。
2021年の冬から実施している農業システムも2年目となり、
だいぶ概形が実現出来てきたように感じます。
この年から、摘心は完全にゼロに出来ましたし、
虫や病気の害についても、かなり予防的な対処をする事が出来て、減薬も捗っていました。
収穫時期としては、皮や種まで香りが完成されている範囲の中で、
果実の熟し期間が完全に終わるまで、収穫時期を可能な限り遅らせてから収穫した。
バルダー果樹園の収穫タイミングとしては、相対的に遅取りタイプである。
これにより、2022年のワインと比べ酸は少ないものの、
純粋な果実の香りの量で言えば、よりたくさんあるワインになったと思う。
ただ、この相対的に早取りタイプと遅取りタイプは、
どちらが良いという事も無く、それぞれに良さがあるのだと思う。
ワイン2022とワイン2023であれば、ワイン2023の方が良いワインとバルダー果樹園は答えるが、
やはりそれは純粋な果実の完成度が2023年の方が良いからであり、
試飲会などで、赤ワインの酸味が好きな方は、ワイン2022の方が好きと言う方も居ますので、
果実の皮や種まで香りが完成されている範囲であれば、
早取りも遅取りも、どちらも良さがあるのだろうと思う。
もちろん、ワイン2023が果実の皮や種まで含めた香りの最大化が完成しているかと言われたら、
まだまだ全然そんな事もないわけだが、
「バルダー果樹園のワインはこういうワインです!」と言って、
最高の果実の香りの、サンプルあるいはイメージとして、
人にお出しできる程度の香りは、持っているワインになった。
この年から、「最高の果実」の香りをワインという形に落とし込む為の醸造についての改善点が、
色々と思い浮かんでくるようになる。
ワイン2023に関しては、特に、
濾過の前後で香りの量が大きく減ってしまった事が、悔やまれる。
これにより2024年以降の委託醸造では、無濾過をお願いしている。
バルダー果樹園としての品質評価は、4000円のワインと言った所だ。
シードル2023
りんごジュース2022の失敗を経て、
果実酒は長く置く事でより落ち着いたり熟成されたりするが、
ジュースだと賞味期限が切れてしまうという、当たり前の事を学んだバルダー果樹園。
現状でバルダー果樹園の普通樹のりんごの成木と言えるものが、
バルダー果樹園のりんご園の前園主から継承したサンふじしかなく、
本当は、他の品種の若木(特に酸味の強い品種)が生育してから、
もっと他の品種をたくさん混ぜてシードルを作りたかったのだが、
バルダー果樹園のサンふじ、皮や種のニュアンスも含めれば単品種ながらかなりの複雑な香りを持っているので、
皮や種まで含めた醸造法であれば、十分な品質のシードルが作れるのではと思い、
アルカンヴィーニュさんにて委託醸造されたシードル。
りんごの出来としては85%ぐらい、ワイン2023と同程度の完成度である。
ワイン用ぶどうよりもシードル用りんごの方が、栽培システムの概形は早めに完成していたが故、
この周辺の年も大体、85%ぐらいの出来で推移している。
85%より上の世界に行くには、また新しい樹形とシステムが必要で、
それが出来るのは、おそらく2026年収穫のりんごからである。
3年~5年ぐらい経験を積むと、頭の中で勝手に新システムを組みたがるのが、
バルダー果樹園の常である。
ベースの製法がシードル準拠な為、
りんごの赤ワインと言えるほど皮や種のニュアンスが抽出されている訳ではないが、
少量ながら皮や種を浸して作った分、
種の香ばしいニュアンスや、皮由来の通常のサンふじにはない個性的なニュアンスが、
りんごの果汁の華やかな香り主体のシードルに、しっかりと加わっている事は確認出来た。
もちろんこれが、バルダー果樹園の作る「最高の果実」の価値を完全に実現したシードル、
なんて事は全くもって無い訳だが、
バルダー果樹園の言う「複雑で、あいまいで、個人的な」香りを説明する上で、
一つの説明の材料にはなるぐらいのシードルになったと思う。
一応、バルダー果樹園の作った初めてのシードルでもある。
少々りんごの香りからは離れた、日本酒っぽい香りもあり、
これは発酵中の低温が理由で、2024年のシードルからは日本酒っぽい香りは無くなっている。
また、2023年のワインと同様に濾過で香りが減ってしまった事が悔しすぎる為、
2024年以降は、無濾過でお願いしている。
バルダー果樹園としての品質評価は、2800円のシードルと言った所だ。
